1960年代半ば、子龍は、漆と金属粉や箔を組み合わせた「漆金」という独自の技法に取り組み始めます。
それまでの書といえば、白い紙に黒い墨。そこに子龍は、金と黒という強い色彩と、漆ならではの光沢や厚みを持ち込みました。
制作には、いくつかの方法がありました。
ひとつは、黒い地の上に、接着剤に混ぜたアルミニウムの粉を大筆に含ませて書き、その上から生漆をかける方法です。もともと銀色のアルミ粉は、漆を重ねることで温かみのある金色へと変化し、文字が画面から浮かび上がるような効果を生みました。
もうひとつは、紙に銀箔を貼り、その上から黒い顔料で文字を書き、画面全体を生漆で覆う方法です。銀色だった地は漆によって金色を帯び、その上に漆黒の文字が鮮烈に立ち現れます。
こうして生まれた漆金作品の重要な特徴が、「マチエール」です。
西洋絵画では、絵の具の厚みや絵肌の質感をマチエールと呼びます。漆金では、筆がどこを走り、どこで力を増し、どこに素材が溜まったのか―一回の筆の動きそのものが、マチエールとなって立体的に残ります。
そのため、文字を読むことのできない人にも、線の速度や重さ、勢い、そして身体の動きまでが、視覚的に伝わります。
子龍がこの技法に取り組んだ背景には、海外での経験がありました。色彩豊かな西洋絵画に親しんだ人々にとって、墨一色の書は、ときに入り込みにくい。そこで子龍は、色彩をひとつの「入口」として、まず作品に目を向けてもらい、その先にある書の線の力を伝えようと考えたのです。
また漆や金属粉を使うことで、墨だけではひび割れてしまうほど厚みのある筆跡を、そのまま定着させることも可能になりました。
漆金は、単に書を華やかに装うためのものではありません。
子龍の言葉を借りるならば、内なる生命を一回きりの筆の動きとして爆発させる。その瞬間を、極限まで物質的なかたちで定着させ、文字や文化の違いを越えて伝える。
漆金は、子龍が追求した「Sho」を、世界へ向けた視覚言語へと押し広げる挑戦の結晶とも言えます。 この言語の音声はまだありません
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「漆金」という技法 | 森田子龍